ジブリ作品の中でも根強い人気を誇る「もののけ姫」。
アシタカが滞在したタタラ場には、ハンセン病患者と思わしきキャラクターたちが登場していました。
今回はそのハンセン病患者である「病者」に注目し、もののけ姫の世界観や、宮崎駿監督が何を描きたかったかを解説していきたいと思います。
もののけ姫のハンセン病患者は治った?
ここで働く病者が、何の病気であるか映画の中では描かれていませんが、ハンセン病の患者たちです。
宮崎駿監督は講演会で、こうした病気を持つ人たちがいたことを知ってほしくて、『もののけ姫』でハンセン病患者を登場させたことを明かしています。https://t.co/wfzm3seY6Y#もののけ姫 pic.twitter.com/Z6t5180Je7— ジブリのせかい【非公式ファンサイト】 (@ghibli_world) August 13, 2021
ハンセン病が治ったシーン
映画のラストシーンではシシ神に首を返すと、森やタタラ場に風が吹き渡ります。
シシ神が起こした風のおかげで死んだ森は生き返り、アシタカの呪いも消え去りました。
その時、ハンセン病患者として描かれているタタラ場の「病者」も病気が治っている素振りを見せる描写が存在します。
なぜ病気が治ったのか?
顔を隠していた布は外れ、包帯が巻いてあった両手は素肌が見えています。
それを驚いたように見入る病者が映っているのです。
一方、エボシ御前が失った片腕は欠損したままでした。
このことから、シシ神の力は存在しているものを元通りに治すものだと考えられます。
そのため病気や呪い、骨折などの症状は消え去りました。
おそらく描かれていない他の病者たちも症状が消えていることでしょう。
治らないものもあった?
しかしエボシ御前の腕のように、既に失ったものはたとえ神であっても復元することは出来ないようです。
そこにもまた宮崎駿監督の物事の捉え方が現れているように思います。
ハンセン病は現在では治療薬が開発され後遺症もなく治る病気になりました。
資料館に足を運び、実際にハンセン病を患っていた人たちと交流をした宮崎駿監督だからこそ、「もののけ姫」の中でもハンセン病は治るという答えをハッキリ描いたのかもしれません。
今はまだ治療薬が見つかっていない病気でも、いつの日か治る未来がくるかもしれないと、そういう希望が込められているように感じます。
タタラ場ハンセン病のシーンの理由
ハンセン病患者の登場シーン
オツカレ🐣
今日は「世界救癩の日」
癩=#ハンセン病#もののけ姫 で描かれる
たたら場の構成員は
☑#戦争 で売られた女たち
☑#差別 に苦しむハンセン病患者
で成り立っていた社会的弱者を温かく迎え入れ
人として生きる場所を与えた
エボシのような女性に
私はなりたいと思う#おつかれ戦隊0129r3 pic.twitter.com/3VBtorFcbz— あやの@シンママビジネスコーチ🍀オーガニック啓発家 (@ayano_hinakume) January 29, 2021
タタラ場に滞在しているアシタカは、エボシ御前の案内で集落の様子を見て回ります。
鉄製品を製造する作業場の後に訪れたのが、ハンセン病患者と思わしきキャラクターたちの仕事場です。
作中では「病者」と呼ばれ、集落から少し離れた一角に病者たちは隔離されそこで仕事をしていました。
そもそもハンセン病とはどんな病気なのでしょうか?
調べてみるとこのような定義でした。
ハンセン病は、「らい菌(Mycobacterium leprae)」が主に皮膚と神経を犯す慢性の感染症ですが、治療法が確立された現代では完治する病気です。1873年にらい菌を発見したノルウェーのアルマウェル・ハンセン医師の名前をとり、ハンセン病と呼ばれるようになりました。
引用:日本財団
皮膚と神経に支障をきたす病気のようですね。
『もののけ姫』に登場するハンセン病者たちは目の部分だけを残して全身を包帯に巻かれています。
顔を隠し、肌を隠し、薄暗く静寂な部屋で黙々と与えられた仕事をこなしていました。
中には身体の一部が欠損していたり、わらの上で寝たきりのままの重症な病者もいます。
先程アシタカが見学した鉄製品を製造する作業場は、和気あいあいとしており活気に溢れていましたが、ここは違います。
少しぎょっとしてしまう病者の見た目と、重苦しい雰囲気の空間。
「エボシ御前のみが自分たちを人として扱ってくれた」
とアシタカに語る病者は「長」と呼ばれていました。
長は目の部分も包帯で覆われ身動きが取れず寝たきりの重症患者です。
しかしそんな姿になっても
「生きることは誠に苦しく、辛い。世を呪い、人を呪い、それでも生きたい」
と語る長の姿には考えせさせられるものがありました。
なぜタタラ場?宮崎駿の想い
https://t.co/sfv7sWWZ8D
「武士や百姓だけでなく、歴史に消えた人、差別された人も描く自由な時代劇に」。映画監督の #宮崎駿 さんが #国立ハンセン病資料館 で講演し、「もののけ姫」にハンセン病患者を登場させた理由を語りました。親交の深かった元患者をしのぶ絵を資料館に贈りました。(志) pic.twitter.com/mB77k2Rx4l— 朝日新聞 映像報道部 (@asahi_photo) January 27, 2019
宮崎駿監督はこの「もののけ姫」という作品にハンセン病患者を描いた理由を講演会でたびたび語っています。
宮崎監督が引っ越して来た場所のすぐそばには、かつてハンセン病療養所がありました。
差別の象徴でもある療養所、それが自分の住んでいる町に存在したことを知っていた監督は、この「もののけ姫」という時代劇を描くに当たり、
「武士や百姓だけが登場する作品を作るのは間違いだ」
と思ったそうです。
この国で生きてきた人たちは武士や百姓だけではありません。
その階級からあぶれた人たちもまた一生懸命、命を燃やしながら生きていたのにその存在を無視して作品を作ることは間違いだと思ったようです。
そうしてもっと自由な時代劇を作りたいという想いから生まれたのが「もののけ姫」です。
自由に世界を作るならば、その時代に存在していた「ハンセン病」にも向き合わなければならないと感じた監督は、資料館に足を運びます。
そこで山のようにある患者たちの生きた証を見た監督は「おろそかに生きてはいけない」と思ったそうです。
もののけ姫は、ポスターのキャッチコピーにもあるように「生きる」が大きなテーマとなっています。
もしかしたらそのテーマは、ハンセン病を通して監督が感じたものが反映された結果なのかもしれません。
まとめ:もののけ姫のハンセン病患者について
- ハンセン病は治療薬が見つかっていない時代だったが、シシガミの力によって治った
- ハンセン病は皮膚と神経に支障ををきたす病気
- 宮崎駿監督はハンセン病患者を見て「おろそかに生きてはいけない」と思った
もののけ姫はテレビ放送などで触れられる機会が多いため、見たことのある人が殆どだと思います。
しかし今回のように特定のキャラクターに焦点を当てるとまた違った見え方になり、より「もののけ姫」の世界を深く理解できますね。
作中では、生きることについて登場人物の様々な見解が伺えます。皆どんな立場や、姿になっても譲れないものがあり、それによって互いに衝突しながら生きていく。
その「生きる」という誰しもに共通する大きなテーマは、大人になったからこそ改めて共感できる部分があると感じました。
これを期にまた一から見返すと子供の頃見たときとは違う、また新たな物語として楽しめるかもしれません。